
~メンタルケアの視点からの提案~
日本経済新聞に「企業が中途採用を拡大する中、中途入社の社員の孤独感が課題として浮上している」という記事がありました。ある民間の調査によると、中途採用で入社した社員の約6割が孤独を感じているそうです。
中途採用者の悩みとして、「即戦力を求められる一方で、社内の人脈がなく、思うように力を出せない」などの背景が挙げられています。
では、この孤独感を「転職時にありがちな問題」として考えるだけで、本当に問題は解決するのでしょうか?
ビューズでは、問題の本質はより深いところ、すなわちメンタル的な要因にあると考えています。
孤独感の本質:「認知の歪み」と「完璧主義」
孤独感を生み出すのは、多くの場合「こうあるべき」という自分自身の強い思い込みや、「即戦力でなければ」「中途入社ならできて当たり前」という完璧主義的な認知が影響しています。
完璧主義やべき思考は、一見「向上心」や「責任感」の表れのように思えますが、実際には本人に強いプレッシャーを与え、孤独感を増幅させる要因になりがちです。
たとえば、
- 「仕事は常に完璧に仕上げなければならない」
- 「助けを求めるのは弱さの証だ」
- 「迷惑をかけてはいけない」
こうした考え方は、周囲に相談したり助けを求めたりする行動を無意識に制限し、「自分ひとりでやらなければ」という感覚を強めてしまいます。この「認知の歪み」は、実は誰にでも起こりうるものであり、特に新しい環境ではその傾向が強まります。だからこそ、自分の中に「〜すべき」「〜でなければならない」という言葉が増えていないかを意識して振り返ることが、孤独感を和らげる第一歩になります。
認知を疑う、というアプローチ
では、どうすればこの「認知の歪み」を軽減できるのでしょうか?
ビューズで取り入れている集団認知行動療法(CBGT)を例に挙げると、まず「〜すべき」「できて当然」といった考え方を客観的に見直すことが推奨されています。
具体的には、以下のような問いを自分自身に投げかけます。
- 「本当に中途入社はできて当たり前なのか?」
- 「すぐに成果を出さなければ本当に認められないのか?」
これらの問いを繰り返すことで、自分が無意識に作り上げていたプレッシャーを徐々に取り外していきます。
孤独感を和らげるための具体的事例
次に具体的に孤独感を軽減する方法を事例から見てみましょう。
ビューズでは『ダイアログ』という対話型ワークを活用しています。これは自分の意見を相手に伝えるだけでなく、相手の意見をよく聞き、「認識をすり合わせる」練習をするというものです。
ある参加者の方はこのワークを通じて「一人で抱え込んでいる問題を相手と共有することで、自分だけが孤独だと思っていた感覚が薄れた」と話されていました。また、「安心して失敗できる場」が孤独感を軽減する効果を持つことも確認されています。失敗を許容する場づくりを意識的に行うことで、自分を無理に追い込むことが減り、孤独感が和らぐことがあります。
日常の職場で実践できる方法
では、これらを日常の職場で実践するにはどうしたらよいでしょうか。
例えば、ビューズで導入されている「セルフモニタリング」は、自分の気分や行動パターンを客観的に記録し、孤独を感じる状況を冷静に振り返ることで、自己理解を深めるという方法です。これを日常の中で取り入れると、自分が孤独を感じやすい場面やタイミングを見つけやすくなり、その後の具体的な対処が可能になります。
また、孤独を感じる場面では、相手との認識を丁寧にすり合わせる習慣をつけるのも有効です。具体的には、以下のような言葉を使ってコミュニケーションをとります。
- 「自分はこう考えているのですが、あなたはどう思いますか?」
- 「こういう認識で合っていますか?」
これにより誤解が生まれにくくなり、「一人で抱え込んでいる」と感じる場面が減るでしょう。ここでポイントになるのは、言葉の持つ意味が本当に自分と周囲が同じなのかを疑うことです。例えば「できて当たり前」という言葉も、中途入社である以上は何らかの成果を期待されているのは間違いありませんが、実際に求められているものが見えていないと、漠然と「できて当たり前」になってしまいます。一度冷静になり、自分が実際に期待されていることをすり合わせることができれば、この気持ちは和らげられるかもしれません。
孤独感は「悪」ではなく「大切なサイン」
孤独感を感じること自体は決して「弱さ」でも「悪いこと」でもありません。むしろ、それは自分や環境を見つめ直すための重要なサインだと考えるべきでしょう。
「中途入社だから即戦力でなければならない」「成果を出せて当たり前」という認識を一度疑い、「孤独を感じることは自然なことだ」と認識を変えることで、自分自身にも周囲にも優しく接することができるはずです。
自分の中のプレッシャーを和らげる第一歩として、まずは「認識を疑う」ことから始めてみてはいかがでしょうか。