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周囲/当事者の方へ

2025/11/28

若い女性の自殺者増加について考える

若い女性の自殺が増えている──
このニュースを見て、胸がざわついた方は多いと思います。

2024年、日本では20歳未満の女子の自殺者数が430人と、統計開始以来はじめて同年代男子(370人)を上回りました。
10年前は男子373人・女子165人だったことを考えると、「女子だけがここ数年で急増している」という異常な伸び方です。

なぜ、こんなことが起きているのか。
そして、ビューズを利用する若い女性たちの姿と重ね合わせると、何が見えてくるのか。

今回のブログでは、白饅頭さんのnote「なぜ若年女性の自殺が増えたのか」と、ビューズでの支援の現場を手がかりに、「女性特有の課題」と具体的な対処法を考えてみたいと思います。


1. 若年女性に何が起きているのか

白饅頭さんが紹介している研究では、思春期女子のメンタルヘルスの悪化は日本だけでなく世界的な傾向であり、とくに「男女平等度の高い国ほど、男女間のメンタル格差が広がっている」という指摘があります。

背景要因としてよく挙げられているのは、

  • SNSによる比較や誹謗中傷
  • ルッキズム・痩せ願望
  • ネットを介した性的搾取
  • 思春期の早期化

…といったものですが、白饅頭さんの元に届いた10代女性の手紙は、少し違う角度からこんなことを語っています。

・ひと昔前の「病んでる系の女の子」は、それでも彼氏や男友達がいて慰めてもらえていた
・自分たちの世代は、メンヘラでも普通に男友達がいない
・「理解ある彼君」がいないからこそ、SNSにしがみつくようになっているのでは

つまり、
「しんどいときに、フレンドリーに構ってくれる他者」が、10〜20代女性のまわりから目に見えて減っている、という感覚です。

白饅頭さん自身も、コロナ禍をきっかけに人間関係が「疎」になったことが、若い女性のメンタルに大きなダメージを与えたのではないかと考察しています。

  • 女性は、もともと男性より「好意的な他者」と接する機会が多い
  • だからこそ、対面の交流が減ると「剥奪感」が男性以上に大きくなる

この「好意的な他者」へのアクセスの激減が、若年女性の自殺急増の一因ではないか、という見方です。


2. ビューズの女性利用者さんと重なる「二つの傾向」

ビューズの現場で女性と関わっていると、こんな傾向を感じます。

  1. 他者の目をものすごく気にする
  2. にもかかわらず、「頼る」「助けを求める」が極端に苦手

これは、先ほどの「好意的な他者が減っている」という話とセットになると、とても危うい状態です。

・他者からの評価や好意を、とても強く求めている
・でも、言葉で「助けて」「しんどい」と言い出せない
・そのうえ、昔ほど“勝手に構ってくれる人”もいない

こうなると、問題を抱え込んでしまうスピードは、男性よりずっと速くなります。

ビューズに通う方々も、「自分のことを話す」「しんどいときにヘルプを出す」ことを、プログラムを通して一から練習しているケースが少なくありません。

  • セルフモニタリングで気分の変化を言語化する
  • 対人関係のグループワークで、相手も自分も大事にする伝え方を学ぶ

といった地道な作業を通して、ようやく「頼ってもいいのかも」という感覚が育っていきます。


3. 「能力主義的平等主義」と、ケアの消失

白饅頭さんの記事で印象的だったのは、若い男性側の変化の指摘です。

  • 若い男性は、女性を「守るべきか弱い存在」ではなく、性別に関係なく「能力」で評価する傾向が強くなっている
  • 「女性だから」「可哀想だから」という理由で、特別に優しくすることへの違和感が広がっている

これは、「能力主義的平等主義」と呼ばれています。

性別による差別をなくす、という意味では、とても正しい方向です。
しかし同時に、

弱っている人・困っている人を「能力不足」と見なしてしまい、
助けるよりも距離をとる

という冷たさも、生み出してしまいやすい考え方です。

かつては、「泣いている女の子を見たら、とりあえず声をかける」という、性差別的ではあってもケアを伴う反応がもっと多く存在していたのかもしれません。
今はそこが、「それって合理的じゃなくない?」という視点で切り捨てられている。

ここで起きているのは、

「平等」は進んだけれど、「ケア」は削られてしまった

という、非常に扱いの難しい状況です。


4. 私が感じている違和感:「この男女平等は、本当にベストか?」

書き手として、ここで少し主観を強めて書きます。

私は、男女平等そのものに反対しているわけではありません。
ただ、「今の進み方」には危うさがあると感じています。

  • 女性の社会進出は以前よりずっと進んだ
  • けれど、「男性並みに稼ぎ、男性並みに働き、男性並みにメンタルもタフであれ」と求められると、相当ハードモードになる
  • 日本では、「本当はそこまでガッツリ社会で戦いたいわけではない。誰かと支え合いながら生きたい」という女性もかなり多いのではないか

にもかかわらず、世の中の空気は、

「社会でバリバリ働く女性」こそが、進歩的で、かっこよくて、正しい。

という方向にだけ強くスポットライトを当てているように見えます。

その結果、

  • 自立志向の強い女性に対しては、「厳しい競争の世界」だけが用意される
  • そうではない女性(パートナーと役割分担して生きたい人など)は、「古い」「甘えている」と見なされやすくなる

という、どちらにとってもあまり幸せではない構図が生まれている気がします。

もちろん、海外には「自立志向が強く、自分で稼ぐことに喜びを感じる女性が多い国」もあります。
そういう土壌であれば、セルフケアやメンタルの“筋肉”も、文化的に育っているのかもしれません。

日本が「同じ土俵で勝負する」「同じモデルを目指す」のだとしたら、本来必要なのは、

・覚悟をもって社会進出を選ぶ女性には、セルフケアやスキル面の十分な準備と支援
・そうではない生き方を選ぶ女性に対しても、「それも一つの正当な選択」と認める社会のまなざし

なのだと思います。


5. 「自立」の誤解と、弱っている人に必要なもの

もう一つ、どうしても触れておきたいのは、「自立」の誤解です。

いまの空気の中では、

自立 = 誰にも頼らず、一人で何とかすること

のように捉えられがちです。

でも、ビューズが「社会的自立」と呼んでいるものは、少し違います。

  • 卒業=就職とは限らない
  • 「どうなりたいか」より、「どう在りたいか」を大切にする
  • 自分の病気や特性、調子の崩れ方を理解し、「自分の取扱説明書」をつくっていく
  • 必要なときには家族や支援者、職場などに、自分から配慮を伝えられるようになる

つまり、

自立とは、「誰にも頼らないこと」ではなく、「頼れる相手や資源を、自分の意思で選べるようになること」

という定義に近いのです。

ビューズのプログラムでも、

  • セルフモニタリングで体調や気分の波を知る
  • 認知行動療法で「〜すべき」思考をゆるめる
  • マインドフルネスや運動、栄養などで心身を整える
  • 対人関係グループワークで「自分も相手も大切にするコミュニケーション」を練習する

といった積み重ねを通して、「自分で自分をケアする力」と「人に助けを求める力」の両方を育てています。

だからこそ、私はこう思っています。

最終的には自立を目指すにしても、
弱っているときに「今すぐ自立しろ」と言うのは乱暴すぎる。
その手前の段階では、「まだ余力のある人たち」がしっかり支える、という発想が必要だ。

その「余力のある側」は、性別に限られません。
男性が女性を、女性が男性を、親が子を、友人同士が、お互いに支えることもあれば、
ビューズのような第三のコミュニティや、専門家がその役割を担う場合もある。

男女平等を語るときも、「ケアの分配」を同時に考えないといけない。
これが、今の流れに対して私がいちばん強く持っている違和感です。


6. 若い女性へのメッセージ:3つだけ意識してほしいこと

ここまでかなり構造的な話をしてきましたが、
もしこの記事を読んでいる女性がいるなら、3つだけ伝えたいことがあります。

「自分のしんどさ」を、言葉にする練習をする

「こんなことでしんどいなんて甘えだ」
「みんな頑張っているんだから、自分だけ弱音は吐けない」

ビューズの利用者さんの中にも、そんなふうに自分を責めてきた方は少なくありません。

でも、しんどさは“比較”ではなく、「自分にとってどうか」で見ていいものです。
紙に書き出すでも、誰かに少しだけ話してみるでも構いません。

「言葉にすること」そのものが、もうセルフケアの一歩目です。

長い文章でなくて大丈夫です。

  • 「今日は疲れた」
  • 「なんか落ち着かない」
  • 「ちょっと安心できた」

こんな短文で十分です。
“言葉にする”練習を日常に置いておくと、ヘルプを出すハードルが格段に下がります。

相談先を複数持っておく

誰かに甘えたい、支えてほしい、という気持ちは自然なものです。
ただ、そこを**「恋人1本」に賭けてしまう**と、どうしても不安定になります。

  • 友人
  • 同じような経験を持つ仲間
  • 家族
  • 支援施設やカウンセラー

など、頼れる先を複数持つことは、それだけで人生のセーフティネットが太くなることでもあります。

 「やりたくないことリスト」を3つだけ書く

“やりたいこと”が分からない時期は、“やりたくないこと”の方がずっと言語化しやすい です。

例)

  • 気を遣いすぎる人間関係は続けたくない
  • 無理なスケジュールを詰め込みたくない
  • 夜更かしの生活には戻りたくない

「やりたくない」を言葉にすることで、自然と“自分に合う方向性”が浮き上がり、自己理解が進みます。


7.相談できる社会資源のご紹介

ここまで、女性を取り巻く構造的な変化や、「頼れる他者」の不足について触れてきました。
しかし同時に、地域には しんどいときに安心して相談できる場所 も確かに存在しています。

名古屋周辺で利用できる社会資源を3つご紹介します。
「一人で抱え込まなくていい」ということを、少しでも肌で感じてもらえたらと思います。

①被害者サポートセンターあいち

https://www.higai7830.or.jp/
DV・性暴力など自分が被害を受けたと感じた際に、まず相談できる窓口です。電話相談やカウンセリング、」自助グループに加え、法律相談など幅広く支援を受けられます。身近な人には言いにくい悩みででも頼ることができます。

②名古屋市 名古屋市男女平等参画推進センター(イーブルなごや)

https://e-able-nagoya.jp/
女性のための総合相談として、家庭や職場、地域などで女性が直面するさまざまな問題について、「女性だからこうでなければ」といった性別役割的な見方を問い直し、本人の気持ちを尊重しながら主体的に解決できるようにサポートしてくれます。
また、女性に対する暴力(DV、セクハラ、性被害など)についても被害者サポートセンターと同様に相談が可能です。

③名古屋YWCA

https://www.nagoya-ywca.or.jp/
社会のすべてのレベルに女性が参画することによって、社会的正義を実現するために働く、国際的なNGO・非営利団体です。外国人支援、グループ活動など幅広い活動を展開していますが、その中の1つの組織であるウィメンズカウンセリング名古屋YWCAでは、女性の抱える心理的問題をサポートするために専門的な訓練を受けたスタッフが、女性のためのカウンセリングやグループワークを実施しています。

どの資源も、あなたが「弱っているとき」に支えとなるために存在しています。
社会の変化が厳しい時代だからこそ、頼れる先を持っておくこと は立派なセルフケアです。

ビューズもまた、その一つとして「一緒に立ち上がる時間」をともにできる場でありたいと思っています。


8. 社会・大人側への問いかけ

最後に、この記事を読んでいる大人の方、支援者の方へ。

若い女性の自殺が増えている現象を、
「最近の若者はメンタルが弱いから」と片付けるのは、あまりに乱暴です。

  • コロナで人間関係が“疎”にされたこと
  • 能力主義的平等主義のもとで、「弱さ」に冷たくなった社会
  • 女性の生き方が多様化しているのに、評価されるモデルはごく一部だけ

こうした構造の変化のなかで、
「好意的な他者を見込んだライフプラン」と「実際に差し伸べられる手」のズレに、若い女性たちは挟まれています。

男女平等を推し進めること自体は必要です。
ただ同時に、

・弱っている人には、ちゃんと頼れる場と人があること
・自立しようとする人には、スキルやセルフケアの支援があること
・そうではない生き方を選ぶ人も、「それはそれでいい」と認められること

この3つをセットで考えない限り、
「平等」の名の下に、誰かが静かに押し潰されてしまうのではないか。

若年女性の自殺増加は、その“ひずみ”がもっとも弱いところに現れているサインだと、私は受け止めています。


しんどいときに、「自分でなんとかしろ」と言わない社会でありたい。
最終的な自立は大事だけれど、その手前には必ず、誰かと一緒に立ち上がる時間が必要です。

ビューズも、その「一緒に立ち上がる時間」の一部を担える場所でありたいと願っています。

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